フェディバースの観測者

日光が入らない暗い部屋。遮光カーテンに遮られ、今が日中なのか夜なのかわからない。

部屋を照らしているのは、パソコンとモニター、そして周辺機器の光。

反射光に照らされながら、俺はパソコンで黒い窓を開き、新天地への鍵を入力する。

『1xx.xxx.xxx.xxx root 22』

俺のいる世界を、異端の社長と天才の社員たちが壊そうとしている。

他の世界を支配する権力者も、彼らに続こうとしていた。

俺は彼らに反発し、何度かメンションやメールを送った。

彼らからの返事は建設的な意見の文書ではなく、アカウントの凍結通知。

その現実を受け取った時、怒りと悲しみ、憎しみの感情が俺を支配した。

「こんなことがあってたまるかよ。気に入らねえよ、こんなところ。だったら俺が作ってやる」

俺は当時の混沌とした感情を思い出しながらキーを入力した。

『su – fediverse
cd ~/live
RAILS_ENV=production bundle exec rake fediverse:setup』

キーを叩き終わると、黒い画面に設定項目が現れた。

俺は設定項目を確認しながら、必要な情報を入力する。

設定こそ面倒だが、新天地で遊ぶためなら仕方がない。

画面を睨みながら入力していると、チャットの通知音が鳴る。

「誰だよ……」とつぶやきながら、チャットの送り主と内容を確認した。

チャットの送り主は前の世界で知り合った男だった。

名前も住まいも知らない。知っているのは30代の普通の会社員であることだけだ。

『新世界の進捗はどうだ?』

俺はチャットの内容に目を通し、返信を入力した。

『順調だよ、もうすぐ完了する』

『そうか、それならよかった。こっちも新世界のルールを作ったところだ。後で確認してくれ』

『助かるよ、仲介者』

彼は俺の思想に共感する同士だ。

俺と違うのは、社交的で誰かと話していることが多い点だ。

俺も前の世界では何度か世話になった。

楽しい会話も、面倒なトラブルも、彼が仲介してくれた。

だからこそ、俺は彼に仲介者を頼んだ。

新世界でも争いは起きるだろう。その仲介役を彼にやってもらいたかった。

「よし、設定は終わった。あとは起動するだけだ」

俺はシステムを起動するコマンドを入力する。

『systemctl enable fediverse-sidekiq.service
systemctl enable fediverse-streaming.service
systemctl enable fediverse-web.service
systemctl start fediverse-*』

黒い窓から出てきた文は、無事に起動ができたという内容だった。

それなら大丈夫かと、俺はブラウザーを開いてURLを入力をする。

開いたページには、新世界が広がっていた。

これから俺は観測者として動くつもりだ。

新世界に住む人たちを俯瞰しながら、俺は裏で新世界のメンテナンスをする。

表に出すぎて彼らを支配したら、俺が憎んでいるやつらと同じになる。

そう自戒し、観測者として俺は呟いた。

「遊び場所は作った。遊ぶためのルールも設定した。さあ、みんなで遊ぼうか」