「うーん……」
僕はうなだれていた。目の前には未使用の原稿用紙がある。
『僕の空想を表現したい』たったそれだけのことだった。
小さな幻想の断片が頭の中にある。それをどう繋げていくのかわからなかった。
そもそも僕は空想を現実化させる方法を知らない。
僕の中にあるものは、途方のない大きな夢と小さなアイディア。
これらをどうやって使えばいいのか、どうやって進めばいけばいいものか。
理屈がささやく。
『情報を集めてうまく段取りを付けろ』と。
直観がささやく。
『自分の思うままに表現すればいいのよ』と。
僕は怯えている。
世の中には精彩な表現力を持つ人がいる。
自分の世界をたくさんの人の目に触れさせることが得意な人がいる。
流行を読み、感性を合わせる人がいる。
僕は何もできない。できないからこそ、僕は怯える。
未熟な僕が表現してもいいのだろうか。
僕の空想が他愛のないものじゃないかと。
みんなに認められる作品が作れないじゃないかと。
それでも僕は目の前にある原稿用紙から背けたくなかった。
「僕は書きたい」と心の中で叫んでいた。
なぜそう思うのかはよくわからない。
幻想に突き動かされているだけなのはわかる。
美しき世界の幻想と暗き恐怖の幻想。どちらも僕の中にある幻想だ。
何を怯えているのだろうか。どうせ幻想に囚われるなら美しき世界に行こうじゃないか。
そして僕は万年筆を手に取り、原稿用紙に僕の世界を書き始めた。