孤独な山羊

昼休みのオフィス。事務仕事を人段落させ、私は一人で食事をしていた。

他の事務員は皆ランチに出かけていた。私が一人で食事をするのはいつものことだ。

「こうなるとはわかっていたとは言え、少し寂しいものがあるわね……」

私も入社した直後はランチに誘われていた。

しかし、彼女たちから出る言葉は仕事や他の職員の愚痴、うわさ話や傷のなめ合い……。

いわゆる馴れ合いだ。私は話に嫌悪するようになり、ランチを断るようになった。

私はいつもこうだった。他の人と馴染めず、ひとりでもくもくと作業をすることが多かった。

「私、社会人に向いていないのかな……」

孤独に苛まれ、ふと弱音を吐いてしまう。

他の人と同じように仲良くできていたら、今よりももっと楽になれていたのだろうか。

その思いと同時に、馴れ合いに辟易している自分も思い出す。

馴れ合いが嫌だから一人になることを選んだのに、そこに戻ろうとするのか。

相反する感情が、私の中で渦巻いていた。

「だめだ、このままじゃ気がめいっちゃう。気分転換に本でも読もうかな」

私は感情から逃れるために、カバンの中にある本を手に取った。

私は読書が好きだ。1人で楽しめて、今みたいな現実の辛い世界から逃れることができる。

それでいいのだ。……私は、本当にそれでいいのだろうか。

(せめて小説を書くことができたらな。今の気持ちをネタにできたのに)

私は心の中でくすぶっていた小さな感情の種に気づいた。

そうか、私はやりたいことがあったんだ。こんなことで悩まなくていいんだ。やりたいことに時間を割いた方がよっぽどいいわね。

私は手元にあったスマートフォンで空想の構想をメモをした。

孤独な山羊が断崖絶壁の山を登っていくお話。

周りに誰もいなくても、生きるために、そして頂上から見える景色を見るために孤独に山を登る山羊。

私も孤独に立ち向かって、人生の山を登ってみよう。