「おっ、結月。こっちに銅鐸があるぞ」
朔太は私の腕を引っ張りながら、銅鐸の元へ向かった。
今日は朔太と博物館でデート。朔太が好きな銅鐸が展示されるということで、いつも通り私は彼についていくことにした。
朔太は歴史オタクだった。とくに弥生時代がお気に入りで、よく遺跡や博物館に行くことが多い。
デートの時も例外ではない。
みんなが紹介してくれるデートスポットへ行かず、朔太が行きたいところばかり行っている気がする。
(私も遊園地や水族館に行きたいなあ……)
私は腕を彼に引っ張られるがまま、不満を募らせていた。
銅鐸の前に留まって数分経っただろうか。朔太は一向に銅鐸の前から動く気配がない。
「……今日の銅鐸はどうなの?」
私は本心を隠しながら、朔太に銅鐸の感想を求めた。
「そうだな、今回の銅鐸はシュッとしててスタイルがきれいだよな。それにここの文様を見ろよ。
精巧にデザインされてるだろ。これは祭り用か?あ、結月に説明しないとだな。銅鐸はな」
「うん、ごめん。わかんないけどわかった、わかったよ」
私は彼の早口トークに困惑した。いつものことではあるが、朔太は自分の世界に入っていることを自覚してほしかった。
朔太が楽しんでいるのは推しはかれる。けれど、ずっと推しはかって私が我慢し続けるのは限度があった。
「……ねぇ、朔太。私、お腹が空いたからレストランに行きたいな」
本当はがお腹が空いていることも察してほしかった。けれど、今の朔太は気づいてくれないだろう。
私は仕方なく、朔太に食事の提案をした。
「ん?ああ、もうこんな時間か。確か外に飯屋があったから、そこに行くか」
朔太は時計を見て、お昼の提案を受け入れた。時計じゃなくて、私を見てほしかったんだけどな。
銅鐸から離れ、レストランに到着する。料理を注文して手持ち無沙汰になった時、彼は話を切り出した。
「そういやさ、俺正悟にツッコまれたわ」
「え、唐突になに?正悟になんか言われたの?」
共通の友人である『正悟』は何を言ったのか?私は胸騒ぎがして朔太に尋ねた。
「あぁ、もうちょっと結月に忖度しろって」
「えぇ……そんな、政治家じゃないんだから。大げさな……」
『忖度』という言葉を聞いて、思わず私は噴き出した。
確かに私の心中を推しはかってほしいとは思っていた。しかし、私の心情を『忖度』で片づけられるのは少し複雑な気持ちになる。
「そうなのか?なんか正悟に俺の不満を喋っただろ。俺あいつに『もっと結月の察するなり意見を聞けよ』ってツッコまれたんだぜ?」
「あ、確かに喋ったかも……。私、朔太と一緒に行きたいところがあったの」
私は博物館で感じた不満を話し始めた。朔太の選ぶデートスポットのこと、私の気持ちを察してほしいこと、その他のこと。
彼は眼をそらしながらも、私の話を聞いてくれた。
「あー、まあ。そうだな。でもな、俺もわかんねえよ!それならそれで最初から言ってくれ!」
彼は罰の悪そうな顔で、しかし不満を見せながら私に言い返してきた。
「朔太なら私のことわかってくれるかなって思って……。ごめん、次からはしっかり言うね」
確かに彼の言い分ももっともだった。私は自分の気持ちを正直に話し、朔太に謝った。
「まぁ、俺も悪かったよ。次からは頑張って忖度するわ」
「忖度はしなくていいから」
私は苦笑しながら、朔太にツッコミを入れた。