目が覚めたとき、『私』は知らない部屋にいた。
天蓋のついたベッドに横たわり、レースが付いたカーテンに遮られている部屋は、『私』にとって空想の世界でしか存在しない世界だった。
『私』は体を起こして半透明のカーテンを開けようとしたとき、カーテンの外側にいた青年によって遮られた。
「クリスティーナ様。お目覚めになったのですね」
青年の細い声が『私』を呼んだ。
癖のあるショートヘア、ライトブルーの髪色の青年。
細面で鼻が高く、端麗な顔にも関わらず、目にかかった前髪と伏せた目によって、その印象をかき消している。
彼の印象を一言で表すならば、『陰気臭い青年』だった。
クリスティーナと呼ばれた『私』は、困惑した表情で青年に尋ねた。
「ここはどこなの?全然見覚えのない場所だわ。何かのドッキリかしら?」
「……え?」
青年はわずかに眉を動かし、クリスティーナを見つめていた。
「どういう、ことですか」
「私もわからないの、気がつけばここにいたわ。それに私はクリスティーナではないわ」
「何を仰るのですか。あなたは、クリスティーナ様です」
青年は『私』の言葉を抑揚のない声で淡々と否定した。
『私』は面食らった顔で、青年の話を聞くことしかできなかった。
「私はどうすればいいのかしら」
「サンローラ様が心配していました。出陣前にあなたが倒られてしまっては、気が気ではないでしょう」
サンローラ?一体誰なのだろうか?
『私』は記憶の中から必死にその人物の名を探したが、心当たりがある人物はいなかった。
「……」
青年は何かを察したのか、これ以上の言葉を発しなかった。
「わかりました、この件をサンローラ様に報告してきます」
そう告げながら彼は部屋を出ようとした。
「待って、あなたの名前も聞かせて」
「ランセルです。あなたの従者でクラレンドン家の者です」
ランセルは俯きながら私の質問に答えた。
彼の表情は見えなかったが、悲しげな感情を『私』に向けていた。
「……失礼します」
『私』にそう告げて、ランセルは部屋から立ち去った。