「ありがとう、ギルサン」
『私』は戸惑いながら、ギルサンに返事をした。
ゲームの世界のキャラクターでしかなかった彼が、こうして目の前にいることが夢のように思えた。
不思議な感覚を胸に感じながら、ふいにドアのノックに気づく。
「お話し中、失礼いたします」
軽装ながらも鎧をまとった騎士が、クリスティーナの部屋を訪れた。
「サンローラ様!出陣の準備が整いました!」
「そうか。クリスが心配だが予定通り出陣するしかあるまい。行くぞ、ギルサン」
「……はい」
瞳に野心と光が満ち溢れるサンローラとは裏腹に、ギルサンは諦めと達観の表情をしていた。
何の指示であろうと、サンローラに従わなければならない。
人質である彼がサンローラの機嫌を損ねたら、ノラリカの民に危害が及ぶ。
ギルサンはサンローラの理想の王子として、振舞うしかなかった。
「お父様……」
「クリス、動こうとするんじゃない。まだ顔色がすぐれてないぞ。今はゆっくり休んでいるんだ」
「……はい」
『私』は何も言えず、サンローラとギルサンが立ち去るのを見送るしかできなかった。