【天下を汝に】第5話・逃亡

クリスティーナに転生してから1週間が経過したころ、1つの凶報が城内をざわつかせた。

「アトマシア軍が奇襲を受けた!?」

クリスティーナの叫び声が執務室に響き渡る。

アトマシア軍の敗北、そして王であるサンローラと主要な家臣の訃報。

クリスティーナを動揺させるには十分すぎるほどの報告だった。

『私』がプレーしてた時は勝利してたのに。

想定していた話が狂い始めているのを感じたと同時に、クリスティーナに不安がよぎった。

「ねえ、ギルサンはどうなったの?」

伝令は口ごもりながらクリスティーナに報告をした。

「それが……」

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時は戻り、ゼネゼラタ・ノラリカ国境付近の森林。

4人の青年たちが馬に乗って森を駆けていた。

背後には数十人の騎士が彼らを追いかけている。

「おい、フルティガー!何とかしろ!」

「無茶いうな!タヅガネ、俺だってもう疲れてるんだぞ」

フルティガーと呼ばれた少年が、息を切らしながらタヅガネと言い争う。

「あんたたちいい加減になさい!声で居場所がバレるじゃないの!」

オレンジの髪とパープルのメッシュが入った青年ーーマティスが二人を叱る。

マティスの背中には、意識を失い、かろうじて余喘を保つギルサンがいた。

彼が息絶える前に追っ手を振り払い、治療しなければならない。

「セイコー!本当にこっちに村があるのかよ!?」

「確かにこの方角に村があるはずだが……」

セイコーは地図を片手に村の方角を確認しようとしたとき、草陰が揺れる音に気付く。

「誰だ!?」

小動物か、追っ手か。4人がとっさに身構える。

草陰を揺らした正体はどちらでもなかった。

銀髪のロングウェーブの少女。

彼女のぱっちりとした金色の瞳は、彼らをまっすぐ見つめ、物怖じせずに視線を森の奥に誘導した。

「こっちに来てください!村の外れに私の家があります!」

「……お前の言うことを信用できると思うか?罠にしか見えないのだが」

「タヅガネ!なんてことを言うんだ」

セイコーが眼鏡を上げながら、タヅガネをたしなめる。

タヅガネの言い分はもっともだ。だが、ここは彼女に賭けるしかないとセイコーは結論付けた。

いや、今はそうするしかなかった。

「ーー案内してくれ」