村はずれにある一軒家。
老朽化しつつあるその家は、お世辞にも4人が寝泊まりするにはいささか不便なものだった。
しかし、追っ手から身を隠して治療を受けるには十分ありがたい存在だった。
「すいません、こんな家で……。一応結界を張って守ってはいますが、家自体はその、あまりいいところじゃなくて……」
家主の少女は頭を下げながら、治療に使った薬品を片付けていた。
「いえ、こちらこそ助かりました」
セイコーは深々と少女にお辞儀をし、治療の報酬を渡した。
「ほんとそうね、アタシたちやギルサン様を治療してもらったおかげで、命拾いしたわ」
左手を振りながら、マティスは右腕の包帯に目を落とす。
「だよなー。どっかのバカは疑ってたけどな」
「……フルティガー。お前も治療中にずっと喋って邪魔しただろうが」
「しょーがねぇーだろー、タヅガネ。こっちは暇だったんだぞ?」
「フン、無傷なのは戦場で手じゃなくて口を動かしてたからか?」
「ちげーよ!」
フルティガーとタヅガネは少女にお礼を言うことを忘れ、口論を始めた。
言い争える元気があるなら大丈夫か、先に恩人にお礼を言うべきでしょ、とセイコーとマティスが言いかけた時、奥の部屋ーーギルサンが眠っているはずの部屋の扉が開いた。
「ここは……。とりあえず俺たちは無事、だったのか?」
「あ、まだ動いちゃダメですよ!」
「あぁ、すまな……」
ギルサンは少女と顔を合わせた瞬間、声を失った。
銀色のウェーブのかかったロングヘアーと矯正な顔立ち。
ぱっちりとしたカナリアイエローの瞳は、心配している表情で彼を見つめていた。
「あの……。ギルサン様、大丈夫ですか?事情は彼らから伺いました」
「あ、あぁ。そうだったか、君のおかげで助かった。名前は……」
「ヘルベチカ・ピアジェです」
「そうか、ヘルベチカ。ありがとう」
ギルサンはしろどもどろにお礼を言いながら、ヘルベチカに深くお辞儀をした。
ギルサンの表情には戸惑いともう1つの感情が表れていた――心なしか顔が赤らめいている。
ヘルベチカに己の感情を見せまいと、ギルサンは顔を逸らせながら話題を変えた。
「さて……、サンローラ様が討ち死にした今、俺たちの身の振りを考えなくてはいけない」