ギルサンの一言で、和やかだった雰囲気が一変した。
眉を眉をひそめる者、不安そうにギルサンを見つめる者。
彼・彼女らに感情の差はあれど、ギルサンの言葉の先にあるモノ――アトマシアに対する感情を露わにする。
「あいつらが俺たちにやったこと、忘れてないだろうな」
タヅガネはギルサンを睨みつけながら、ギルサンに畳みかける。
「色々奪っていっただろ。領地も、家族も、俺たちの誇りも」
神妙な面持ちでフルティガーは答える。
フルティガーのうつ伏せた目は光を失って、内面の闇が映っていた。
「そうですね、私たちに聞いても答えはみな同じだろう」
「えぇ、皆も私も、そこのお嬢さんもあなたと同じ意見よ」
セイコーとマティスは静かにうなずき、不安そうに見つめている少女、ヘルベチカに視線を移す。
「え!?私もですか!?まぁ、難しいことはわかりませんが、私は……」
戸惑いながらヘルベチカは言葉を紡ぐ。
小屋の中に沈黙が訪れる。
佳境の小さな小屋で重大な決断をギルサンに促しているのだから。
「いや、大丈夫だ。ヘルベチカ、意見を求めてしまってすまない」
ギルサンはヘルベチカの重荷を背負わせないよう、優しく声をかける。
そして、ギルサンは迷いを振り払うように、心中に打ち込まれた楔を取るために言葉を出した。
「そうだな、俺は、いや、ノラリカは……。アトマシアから独立をするべきだな」
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「つまり、ギルサンはアトマシアから独立したと」
「……はい」
伝令の報告を受け、クリスティーナは動揺していた。
父と主要な家臣の凶報に追い打ちをかけてきたのだから。
「……無理もありません。彼の国、ノラリカは私たちが支配してただけなのですから」
ランセルはクリスティーナに淡々と事実を伝える。
彼の表情からは動揺を感じられなかった。
「ですが、今のままではマズい状態です。同盟国のタルテトームに協力を要請しつつ、態勢を整えた方がよろしいかと」
「そうね。アトマシアの外よりも内に気を配らないとね。あなた、タルテトームに書簡を……」
クリスティーナが伝令に指示をしかけたとき、あわただしい足音が聞こえてきた。
「何かしら?騒々しいわ」
部屋の外から騒々しさに、クリスティーナは胸騒ぎがした。
少なくとも吉報ではないと直観していた。
「クリスティーナ様!タルテトームが同盟を破棄してノラリカと同盟を組んだようです」
「……嘘、でしょ??」
吉報ではないとは思っていたが、ここまでの凶報とは。
クリスティーナは眩暈を起こし、現実から目をそむけようとした。
しかし、もう1つの凶報がクリスティーナの現実逃避を阻止した。
「タルテトームとノラリカがアトマシアに宣戦布告し、我が領地に攻め入ろうとしています」