【天下を汝に】第7話・治療

ギルサンの一言で、和やかだった雰囲気が一変した。

眉を眉をひそめる者、不安そうにギルサンを見つめる者。

彼・彼女らに感情の差はあれど、ギルサンの言葉の先にあるモノ――アトマシアに対する感情を露わにする。

「あいつらが俺たちにやったこと、忘れてないだろうな」

タヅガネはギルサンを睨みつけながら、ギルサンに畳みかける。

「色々奪っていっただろ。領地も、家族も、俺たちの誇りも」

神妙な面持ちでフルティガーは答える。

フルティガーのうつ伏せた目は光を失って、内面の闇が映っていた。

「そうですね、私たちに聞いても答えはみな同じだろう」

「えぇ、皆も私も、そこのお嬢さんもあなたと同じ意見よ」

セイコーとマティスは静かにうなずき、不安そうに見つめている少女、ヘルベチカに視線を移す。

「え!?私もですか!?まぁ、難しいことはわかりませんが、私は……」

戸惑いながらヘルベチカは言葉を紡ぐ。

小屋の中に沈黙が訪れる。

佳境の小さな小屋で重大な決断をギルサンに促しているのだから。

「いや、大丈夫だ。ヘルベチカ、意見を求めてしまってすまない」

ギルサンはヘルベチカの重荷を背負わせないよう、優しく声をかける。

そして、ギルサンは迷いを振り払うように、心中に打ち込まれた楔を取るために言葉を出した。

「そうだな、俺は、いや、ノラリカは……。アトマシアから独立をするべきだな」

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「つまり、ギルサンはアトマシアから独立したと」

「……はい」

伝令の報告を受け、クリスティーナは動揺していた。

父と主要な家臣の凶報に追い打ちをかけてきたのだから。

「……無理もありません。彼の国、ノラリカは私たちが支配してただけなのですから」

ランセルはクリスティーナに淡々と事実を伝える。

彼の表情からは動揺を感じられなかった。

「ですが、今のままではマズい状態です。同盟国のタルテトームに協力を要請しつつ、態勢を整えた方がよろしいかと」

「そうね。アトマシアの外よりも内に気を配らないとね。あなた、タルテトームに書簡を……」

クリスティーナが伝令に指示をしかけたとき、あわただしい足音が聞こえてきた。

「何かしら?騒々しいわ」

部屋の外から騒々しさに、クリスティーナは胸騒ぎがした。

少なくとも吉報ではないと直観していた。

「クリスティーナ様!タルテトームが同盟を破棄してノラリカと同盟を組んだようです」

「……嘘、でしょ??」

吉報ではないとは思っていたが、ここまでの凶報とは。

クリスティーナは眩暈を起こし、現実から目をそむけようとした。

しかし、もう1つの凶報がクリスティーナの現実逃避を阻止した。

「タルテトームとノラリカがアトマシアに宣戦布告し、我が領地に攻め入ろうとしています」