【天下を汝に】第8話・疲弊と間者

ギルサンとヒューゴの裏切りと同盟から半年。

彼らはアトマシアを少しずつ侵略していた。

侵略されたのは領地だけではなかった。

内通を試みる者、侵略に勢いに恐れを戦き降伏する者。

クリスティーナに着いてきた人達が離れ、刃を向けようとする。

そんな現実に、クリスティーナは辟易していた。

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アトマシア城内の訓練施設。

武具が散乱した場内が、国の防衛に追われて余裕がなくなっている様を表している。

人気が少なくなった訓練所で、クリスティーナとランセルが鍛錬を行っていた。

切羽詰まった表情で、訓練刀を振り回すクリスティーナを、表情を変えず淡々と受け止めるランセル。

2人の表情もまた、現状に対する余裕を表しているのかもしれない。

「……クリス様。そろそろ休憩しましょう」

「い、いえ……。まだ、まだ……」

「ダメです、焦る気持ちもわかりますが、今は休みましょう」

ランセルが焦るクリスティーナを抑止した。

「……わかったわ」

クリスティーナはそれ以外の返事を言えずに、ただただ顔を俯かせた。

「少し気分転換をしましょうか」

「そうね。……ねぇ、ランセル。少し城下町を歩いてもいいかしら。もちろん共はしっかりつけるわ」

「……わかりました」

ーーー

城下町は活気に溢れていた。

いや、活気に満ち溢れてるように見せているだけなのかもしれない。

大通りの露店街。

人と交易品が行き交うここは、たくさんの噂も流れていた。

ノラリカとタルテトームの侵略という噂の中で、人々は日常を生活しなければならなかった。

不安と日常の境界を、クリスティーナとランセルが視察している時、クリスティーナは商人に呼び止められた。

「おや、そこの方。ちょっと見ていきませんか」

薄緑の髪の毛に人懐っこい笑顔。

軽快にしゃべる彼は、どこか無邪気で惹かれるものを持っていた。

「……あら??」

クリスティーナは違和感を感じた。

普通の住人だったら。

いや、このゲームの住人だったら絶対に気づかない何かを。

「どうしましたか?」

「いえ、この商品が気になって」

クリスティーナはアンティークの皿を手に取った。

アンティークの皿自体に対して興味はない。

クリスティーナは商人に探りを入れた。

「この皿はどこで作られたのかしら?」

「あぁ、それはノラリカの食器ですね」

「……そう。それで、あなたはどこの者かしら」

「何をおっしゃるのですか、僕は……」

商人の言葉が紡がれる前に、ランセルは商人に剣を向けた。

「お前はタルテトームの間者だな。今なら命だけは助ける。さっさと吐くんだ」

「ちょっと待って、なぜあなたが正体を……」

クリスティーナは目を丸くさせた。

商人の名はニューロマ。

タルテトームの間者であり、ゲームではヘルベチカの説得を受けて寝返る、いわゆる隠しキャラに当たる存在だった。

本来ならばクリスティーナしか知りえない情報を、なぜランセルは知っているのだろうか。

ランセルはクリスティーナの言葉に動揺した。

「……それは」

「ハハッ、意外と早く露見するとは」

ランセルがクリスティーナのセリフに気を取られてる瞬間に、ニューロマは動揺しているクリスティーナに向かって手持ちの小袋を投げた。

「クリスティーナ様!」

ランセルは小袋を剣で斬りつけ、クリスティーナを守ろうとした。

しかし、それがかえって仇となった。

小袋から飛び出た砂によって、ランセルとクリスティーナはニューロマから目を離してしまった。

「……逃げられたか」

視界から砂が消えた時には、ニューロマの姿はなかった。

そこにあったのは、ニューロマの正体を知っている、秘密を抱えている2人しか存在しなかった。